突然ですが問題です。次の文を、正しい日本語に直してみてください。

「いいえ、お客様、とんでもございません。私から当社の課長にお伝えし、早急にご対処させていただきますので、どうぞお待ちになられてください。」

「課長、出張ご苦労様でした。その間、私は、一日お休みをいただきました。有難うございました。」

さて、誤りがいくつ見つかったでしょうか。


「とんでもない」は形容詞

よく聞く「とんでもございません」という表現。余りに多くの人が使うため、現在は文科省直下の文化審議会の「敬語の指針」で使用が認められていますが、元々これは間違った言い方です。ご年配の方や言葉づかいに気をつけている方などの中には依然気にされる方も多いので、使用するのなら正しい表現を使いたいものです。

なぜ、「とんでもございません」がおかしいかピンとこない方は、「もったいない」や「味気ない」「はしたない」などを同じように言い換えてみるとわかりやすいでしょう。或いは、「ない」の前に助詞の「が」を入れてみてください。

「もったいございません」とは言いませんね。また、「もったいがない」と言わないのと同様に、「とんでもがない」とは決して言いません。

では「とんでもない」を正しく美しく使うにはどうしたらよいでしょう。答えは、「とんでもないことでございます」です。

ただこれにも弱点があり、状況と、その抑揚などによっては、「とんでもない」のもう一つの意味、“ひどいことだ”という意味に受け取られかねません。その為、ケースに応じ、「恐縮でございます」等、全く他の言葉に言い換えるのも得策です。


尊敬語と謙譲語

一つ目の文章ですが、身内である課長に「お伝えし、」はおかしいですね。伝える相手が自分から見て目上でも、会話の相手側にとっては先方の身内にあたるのですから謙譲すべきです。正しくは「申し伝え、」となります。

逆に、先方の会社へ伺った際に「○○さんおられますか?」など、相手に謙譲語を使ってしまっているケースもよく見受けます。正しくは「いらっしゃいますか?」ですね。「おる」は、自分や身内に用いる謙譲語です。注意しましょう。

二つ目の文章にも尊敬語と謙譲語を勘違いしている部分があります。
「ご苦労様」は目下に対して使う言葉です。目上には「お疲れ様です」「お疲れ様でございます」となります。また、「お休み」という言葉も、単に「休み」を丁寧にしているように取れなくもないのですが、その休みを取ったのは自分なので、「お」は付けずに「休み」とするのが正しいです。

もし納得できないという方は、「休み」を、「休暇」と言い換えてみてください。自分の休みに対し、「ご休暇をいただきました」とは言いませんね。ですから、「課長、出張お疲れ様でした。その間、私は一日休みをいただきました。恐縮です」となります。


丁寧すぎる言い回しは耳障り

「ご対処させていただきます」は二重敬語と言って、丁寧すぎて耳障りとなる表現です。動詞を丁寧にするときは、上に「お」や「ご」を付けるか、語尾を変化させるかのいずれかでいいのです。上の例で言えば、「ご対処します」とするか、「対処いたします」となるでしょう。同様に、よく聞かれる「おいでになられます」もおかしな表現です。「いらっしゃいます」でじゅうぶんですよね。
ただし、「~させていただきます」は必ずしもまちがいではありません。謝罪を含むような場合では、「~させていただきます」とへりくだり話してもよい場合があります。


滑らかに、簡潔に、心を込めて

しかしながら、正しく美しい表現をきちんと使っていても、ぎこちなかったり棒読みでは台無しですね。肝心なのは滑らかに話すこと。しかしこれは、訓練するよりほかありません。何度も何度も正しく美しい表現を使いましょう。

また、ビジネスにおいては、丁寧であることよりも簡潔であることが優先される場面が多々あります。上記の例で言えば、「対処させていただきます」よりも「至急対処いたします」の方が、相手に状況や気持ちが伝わるのではないでしょうか。

特に電話で話すときや、日本語が母国語ではない方と話すときなどは、丁寧さよりも簡潔さ・わかりやすさを優先しましょう。
そのようにTPOに合わせた話し方を自然に選べることこそが、正しく美しい日本語を操れているということになるのです。すなわち、“心を込める”という、最も大切なスキルです。逆に言えば、それさえできれば多少の間違いは気にならないものです。相手の立場や現在の状況を常に観察しながら言葉を選んでいきましょう。

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