企業がLGBT施策を行うメリットと取り組みの紹介

生産性の向上など、自社にとってのさまざまなメリットを得るためには、どのような立場の従業員であっても働きやすい環境を作ることが大切です。たとえば、性的マイノリティといわれている「LGBT」に関する取り組みも必要とされています。そういった取り組みをすでに行っている企業もあるものの、まだ少ないというのが現状です。そこで、この記事では企業がLGBT施策に取り組むメリットや実際に行われている取り組みについて紹介します。 

1. LGBTとは

Lはレズビアン(女性の同性愛者)、Gはゲイ(男性の同性愛者)、Bはバイセクシュアル(両性愛者)、Tはトランスジェンダー(出生時の性別とは別の性別を自任している人)を指し、この4つの頭文字をとったものが「LGBT」です。さらに、自分の性が何なのかわからない人や決めたくない人、わからないままにしておきたい人はクエスチョニングと呼ばれています。性的マイノリティ全体を指す言葉としてクィアもあり、これらすべてを含め、「LGBTQ」や「LGBT+」「LGBTs」と表現される場合も少なくありません。ほかにも、性的・恋愛的対象を持たないアセクシャル、性分化疾患であるインターセックス、パンセクシュアルなどの言葉もあります。SNSなどを使っているときに6色の虹マークを見かけたことがある人もいるのではないでしょうか。6色の虹は、LGBTや性の多様化を表現するマークとして世界各国で使われているのです。

性の在り方について、本人以外が決めることはできません。なかには、自分の性の認識をはっきりさせることが難しく、迷っている人もいます。2019年、博報堂DYグループ「LGBT総合研究所」が全国の20~60代(約42万人)を対象として行った調査によると、LGBTや性的マイノリティに相当する人は約10%でした。メディアにLGBTが登場する機会も増えてきてはいますが、差別や偏見からカミングアウトできない人もいるのではないかといわれています。
 

2.「Ally(アライ)」「SOGI(ソジ)」とは

LGBTに関連して、「Ally」や「SOGI」などの認知が高まってきている用語もいくつかあります。Ally(アライ)とは、LGBTなどの性的少数者を支援したいと考えている人のことです。英語の「Ally」、日本語では「同盟」や「味方」を意味する言葉が語源となっています。たとえLGBTの当事者でなくても、Allyとしてレインボーカラーを掲げ、LGBTの価値観を積極的に受け入れる動きが世界的に広まっているのです。

SOGI(ソジ)とは、「Sexual Orientation(性的指向)」と「Gender Identity(性自認)」の頭文字を取った言葉で、性別に関する人の属性を全方向的に表しています。自分をどの性別だと認識しているのか、どの性別を好意の対象とするのかといった状態を示すときに使われます。

2020年6月1日に、改正労働施策総合推進法、いわゆるパワハラ防止法が施行されました。この中で、SOGIハラスメントやアウティングの禁止が企業に義務付けられています。アウティングとは、本人の同意なく性的指向などを第三者に開示する行為のことです。
 

3. LGBT当事者が企業で直面しやすい問題

LGBTの当事者は、サラリーマンとして働く中でも、日常的にさまざまな困難に直面します。例えば、不平等な福利厚生の問題が挙げられます。配偶者が異性であれば適用される結婚休暇や介護休暇を利用したくても、同性で結婚していないことを理由に断られるといったケースです。また、制服やトイレに関して特定の性別を押しつけられることも、当事者が不満を募らせがちな問題です。
その他、アウティングの被害に遭うこともあります。人事の担当者にトランスジェンダーであることを伝えたら、他の人もトランスジェンダーであると教えられ、自分も同様にアウティングされるのではと不安になったケースもあるようです。従業員がこうした悩みを抱えているにもかかわらず、LGBTに関する相談窓口を設けていない企業も少なくありません。

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4. LGBT施策を行うことで企業が得られるメリット

企業においてLGBTに対する偏見や差別が0ではないことから、そういった経験をした際に転職をしてしまうケースもあります。逆に、LGBT施策がしっかりとされている企業というイメージから、成長株の人材を得ることも可能です。つまり、LGBT施策は優秀な人材の確保や離職の防止につながるのです。企業には経営上の取り組みのひとつとして、さまざまな人材を積極的に雇用・活用することを指す「ダイバーシティ」という言葉があります。LGBT施策は、ダイバーシティに積極的な企業であるというイメージがつき、企業としての価値が上がることも期待できるのです。偏見や差別がなくなれば、LGBTがより働きやすくなります。結果として、企業にとっても労働生産性がアップするというメリットがあるのです。

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5. LGBTフレンドリー企業の取り組み

周囲にカミングアウトしているかどうかは問わず、LGBTが働きやすい環境を整えている企業は「LGBTフレンドリー」と呼ばれています。LGBTフレンドリーの企業では、実際にどのような取り組みがされているのかについて、詳しく紹介します。

5-1.社内規定を明確にする

基本的なこととして、国籍や年齢、性別などと同じように性的指向や性自認について社内規定に明記することで、差別やハラスメントを禁止しています。企業自体がLGBTに対する姿勢を従業員や外部に示すことで、差別や偏見などが起こらない状況を作るのです。社内規定として差別禁止が定められているかどうかは、その企業のホームページの企業理念や社会的責任について記載されている箇所で確認をすることができます。

5-2. 企業内で研修を行う

差別や偏見などを防ぐためには、LGBTに対する理解を深める必要があります。その方法のひとつとして、企業でLGBTに関する研修を行うのです。悪意がなかったり、理解不足ゆえの言動だったりと、わざとではなかったとしてもLGBTを傷つけてしまうケースもあります。お互いに誤解が生じてしまうのを避けるためにもLGBTに対する理解を深め、適切な関わり方ができるようにしなければなりません。LGBTの支援者や理解者は「アライ(Ally - 味方)」と呼ばれています。

LGBTに対する理解が深まれば、社内にアライを増やすことも可能です。アライが多い企業では、LGBTもより働きやすくなりますよね。たとえば、LGBTフレンドリーの企業のなかには、アライバッジを身に着けて表明できる環境を整えているところもあります。セクシャリティについて冗談を職場で言っている従業員がいたときにはその場で注意をするといった、意識改革を積極的に行っていくことが大切です。

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5-3. LGBTイベントへの協賛

6月は、LGBTプライド月間です。さまざまな国で1カ月の間、「LGBT+」の権利や文化、コミュニティーを支持するイベントやパレードが行われます。アメリカでは、1969年6月の「ストーンウォールの反乱」を記念したイベントが1970年代前半から伝統的に行われてきました。ストーンウォールの反乱はグリニッジビレッジの「ストーンウォール・イン」というゲイバーにニューヨーク市警の警官が踏み込み捜査を行った際に起きた事件です。その日、異性の服装をしていたり、身分証明書を所持していなかったりした客を逮捕した警官に対し、LGBTの人々が初めて抗議をして暴動が起きました。暴動は数日間続いた後沈静し、その後の性的マイノリティによる権利の獲得を主張する運動が活発化するきっかけとなったのです。

日本でも、毎年4月には東京渋谷の代々木公園付近で「東京レインボープライド」というパレードやイベントを開催していることが有名です。国内のほかの地域でもさまざまなイベントが行われており、企業のなかにもイベントの協賛をしたり、ブースを設けてLGBTの象徴であるレインボーカラーの商品やサービスが提供したりしているところもあります。

5-4. 同性カップルと婚姻者を同じように扱う

一般的に、既婚者に対しては福利厚生や出張に関して配慮されていますよね。同性カップルに対しても同等の扱いをしている企業もあります。たとえば、結婚祝い金や結婚・育児・介護休暇、社宅、家族手当などです。カップルではなく、ただの同居人なのに手当を受け取るといった悪用がされるのではという懸念もあるかもしれません。しかし、申告をした場合にのみ制度が適用されるというルールをあらかじめ作っておくことで、同性カップルも必要な制度を利用しやすくなります。

5-5. 相談窓口を設ける

LGBTひとりひとりの悩みに寄り添うために、社内に相談窓口を設けている企業もあります。しかも、匿名で相談できるため、プライベートを明かすことなく、悩みの解決につなげることが可能です。相談内容は幅広く、同性パートナーが海外赴任をすることになった場合の対応や性別適合手術に関する悩み、社内でのLGBTに対するセクハラといったものがあります。企業の制度ではそのような悩みにまで対応することが難しい場合も多く、相談窓口がLGBTにとって心強い場所になるのです。社内に相談窓口を設けるのが難しい場合は、相談にのってもらうことができる団体を紹介するという方法もあります。

5-6. だれでもトイレや更衣室など設備を整える

LGBTのなかでも、特にトランスジェンダーにとって悩みの種になりやすいことのひとつがトイレや更衣室の問題でしょう。男性用・女性用どちらを使用すればよいのかわからないと困ってしまう人もいます。そういった場合に備えて、LGBTフレンドリーの企業で行われているのが「だれでもトイレ」の設置です。だれでもトイレは性別を問わず、だれでも利用することができるため、トランスジェンダーにとっても安心して利用しやすい環境といえます。更衣室に関しては完全個室や時間による交代制にするといった工夫をしているところが多いです。
 

6. SOGIハラスメントの防止策

  • ハラスメント防止の方針を明確に打ち出し、社内に周知する
  • 就業規定の見直しを行う
  • 相談に対応するための体制を整える

パワハラ防止法でも規定されているように、企業は工夫を凝らしてSOGIハラスメントの防止に努めなくてはなりません。ここでは、SOGIハラスメントの防止策を講じるときの手順をみていきましょう。
最初に、ハラスメント防止の方針を明確に打ち出し、社内に周知することが大切です。性的自認や性的指向に関するハラスメントを禁じる旨を規則に盛り込むなど、必要に応じて就業規定の見直しを行ってください。アウティングやSOGIハラスメントに該当する行為の定義についても記載しておくと、認識のすれ違いに端を発するトラブルも予防できます。

次に、SOGIハラスメントに関する相談に対応するための体制を整えます。相談の内容に応じて適切に対応できるようなフォローアップ体制を整備しておきましょう。内容がデリケートで口頭では伝えづらいケースも想定し、メールなどで相談できるようにしておくことも重要です。実際にSOGIハラスメントが起きてしまったときは、迅速に事実関係を確かめて対処する必要があります。その他、従業員が安心して相談できるような補助的な措置も講じておくとよいでしょう。
 

7. LGBTフレンドリー企業の取り組み事例

LGBTフレンドリーな企業では、すべての従業員が快適に働けるように、さまざまな取り組みを行っています。LGBTフレンドリーな企業として、まず挙げられるのが日本アイ・ビー・エム株式会社です。この会社では、1984年にアメリカの本社でLGBTの雇用機会均等を広く宣言してから、人事制度の改革などを通して誰もが働きやすい環境の構築を一貫して目指してきました。2019年から始めた「Be Equal」キャンペーンでは、性別に関係なくリーダーとして活躍できる職場づくりを社会全体に提言しています。より具体的には、同性パートナーシップ制度を充実させ、登録された同性パートナーが配偶者と同等の福利厚生を享受できる体制を実現しています。
ラッシュジャパン合同会社も、誰もが平等に暮らせる社会の実現を目指している企業の一つです。2015年には、日本アイ・ビー・エム株式会社と同じようにパートナー登録制度を設け、結婚していなくても介護休暇などを取得できるようになりました。2022年からは、同性婚の法制化を求めて企業として明確な意思を示し、社会に対して強くメッセージを発信しています。また、Uber Japan株式会社でも多様性を重視しており、世界中で最も平等で多様性のある職場環境を作り上げることを宣言しています。
 

LGBTへの取り組みは企業・働く人の双方にメリットが多い

LGBTに関する取り組みは企業にとっては優秀な人材の確保、離職防止、労働生産性や企業としての評価の向上などメリットがあります。また、LGBTやほかの従業員も働きやすい環境を得るため、企業と従業員双方にとって良いことだといえるでしょう。LGBTの施策をしている企業は「LGBTフレンドリー」と呼ばれており、さまざまな取り組みをしています。取り組み内容については、企業のホームページやイベントの協賛をチェックしてみましょう。

【2021年6月1日公開 - 2023年6月9日更新】
 

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