企業の取り組みが注目されるダイバーシティとは?

「ダイバーシティ」という言葉を耳にしたことのある人も多いのではないでしょうか。ダイバーシティは今や企業にとって避けて通れない問題となっており、また企業で働く人にとっても無関心ではいられない問題です。そこでここでは、ダイバーシティの意味と基本概念、そして企業が推進することになった背景や、企業と従業員双方のメリットについて解説します。

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1.ダイバーシティとは

ダイバーシティ(diversity)は日本語では「多様性」「相違点」と訳される言葉です。年齢・性別や人種・国籍、あるいは学歴・職歴から性的指向や性自認に至るまで、人には様々な違いがあります。こういった属性で人を分け隔てするのではなく、多様性を認めたうえで共存していこうというのがダイバーシティの考え方です。

ビジネスにおけるダイバーシティは、元々アメリカで始まったものです。女性やマイノリティに対し採用や処遇の面で存在していた差別をなくしていこうという活動から、この概念が生まれました。日本では人権意識もありつつも、どちらかといえば少子高齢化による労働者不足に対応する必要に迫られて、人材確保のために女性や障碍者も積極的に採用していこうという方向で取り入れられていることが多いです。

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2.ダイバーシティの種類

ダイバーシティには大きく分けて「表層的ダイバーシティ」と「深層的ダイバーシティ」の2種類があります。表層的ダイバーシティとは外見で識別できる属性のことで、年齢・性別や人種・民族、そして障がいなどが主なものです。これらは生まれつきのものなどで自分では変更することができない属性です。一方深層的ダイバーシティは、内面的な多様性を指します。例えば性格や考え方、宗教や習慣、さらには学歴や職歴、趣味・嗜好やコミュニケーション力、それに性的指向といったようなものです。

日本でダイバーシティといった場合、表層的ダイバーシティを指すことが多くなっていますが、深層的ダイバーシティも決して無視してよいものではなく、内面の多様性も重視した取り組みを行うことが必要です。
 

3.企業がダイバーシティを推進するようになった背景

このようなダイバーシティを重視し推進する企業も増えてきましたが、それにはどんな背景があるのでしょうか。

3-1.労働人口の減少

日本では少子高齢化が進行しており、労働人口は減少の一途をたどっていますが、この傾向は今後も改善されることなく続いていくことが予想されています。現在働き盛りの男性を多く雇用している会社も、いずれは多くの社員が定年を迎え、このままでは人手不足になることは火を見るよりも明らかです。つまり「働き盛りの男性」だけを雇用していては、企業は立ち行かなくなるということです。

従って企業が必要な人材を確保するためには、それ以外の属性の人たちも採用していくことが必要になります。女性社員が長く働けるよう育児休暇後に復帰できる体制を整えたり、高齢者の再雇用を促す、外国人労働者を受け入れる等、年齢・性別や国籍に関わらず広く門戸を開いていくことが重要なのです。

3-2.働き方に関する価値観の多様化

かつての社会では男性は仕事、女性は家庭という役割分担が固定化され、男性は家庭よりも仕事が優先とされましたが、その代わり終身雇用や年功序列で身分と収入の安定が保証されていました。しかしそうした考え方はもはや過去のものとなり、働き方や仕事に対する価値観は多様化してきています。女性の社会進出が進んで性役割分担が崩れ、夫婦は共に働き家事や育児は分担するという考え方が広まる一方、男性側の意識や長時間労働の問題からアンバランスが生じているという現実もあります。

そんな中、若い世代ではより自分らしい生き方を求め、ライフワークバランスを重視する人が増えてきました。企業への帰属意識も薄れ、やりがいや個性の発揮を求めて転職する人も少なくありません。そのため、企業側もこうした意識の変化に対応していく必要に迫られています。

3-3.グローバル化に伴うニーズの多様化

国内需要の飽和から日本でグローバル化が進み始めたのは1990年代のことでしたが、日本企業が海外に進出すると同時に海外企業も日本に進出し、互いの競争が激化しました。この競争に勝つためには、世界のニーズに合致する商品の開発やサービスの提供が必要ですが、世界には様々な価値観があり、国内の画一的な価値観では到底太刀打ちできません。

多様な価値観に対応するためには多様な人材の確保が必要です。様々な個性や能力、文化的な背景を持った人々が集まれば、多様な視点からものを見ることができ、イノベーションを生み出しやすくなります。国籍や人種にこだわらず優秀な人材を集めるというダイバーシティの考えが日本で広まったのには、こうした事情もあるのです。
 

4.ダイバーシティに対する企業の取り組み

では、ダイバーシティに対して具体的にはどんな取り組みがなされているのでしょうか。これには大きく分けて採用面と社内制度の2つがあります。採用面では障碍者や高齢者、外国人などに積極的に門戸を開くことが挙げられるでしょう。「障害者雇用促進法」で義務付けられた障碍者の雇用割合は徐々に引き上げられていますし、高齢者については定年延長や再雇用という措置が取られ、外国人の採用枠を増やす企業も多くなっています。

社内制度の面では子育て支援や女性管理職の育成など、女性が働きやすい環境づくりに力点が置かれていることが多いです。また仕事への価値観が多様化する中で、勤務体系や勤務地の柔軟化なども進められています。

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5.ダイバーシティを推進することで企業側が得られるメリット

企業がダイバーシティを推進するのは、それによって企業側がメリットを得られるという側面があるからです。では具体的にどのようなメリットがあるのか見ていきましょう。

5-1.優秀な人材を確保できる

企業の取り組みで紹介した通り、ダイバーシティを推進している企業では柔軟な働き方を取り入れています。育児や介護で仕事を離れることになった人は、かつては復帰するのが難しくそのまま辞めてしまうことが多かったのですが、復帰できる環境が整えられている企業では継続的に働くことを諦める必要がありません。企業にとっても優秀な人材を失うことがないというメリットがあります。

また、ダイバーシティを推進する企業は働きやすく長く働ける環境が整っていると認知されるため、求職者にとっては魅力的な職場と映ります。すると求人の応募者が増え、企業は数多くの応募者の中から選ぶことができるようになるので、優秀な人材を確保しやすくなるのです。

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5-2.顧客のニーズに則したサービスや商品の提供が可能になる

消費者のニーズが多様化する時代において、それぞれのニーズを的確につかみ商品やサービスに活かしていくのは必要不可欠なことです。しかし均質化した社員の中からは革新的なアイディアが出ることは期待できず、会社は生き残ることすら難しくなってしまうかもしれません。

従来とは異なる視点から商品開発やサービスの企画をするためには、多様な人材が必要です。多様な人材が集まると様々なスキルや知見が集積し、新たな発想や多様なアイディアが生まれやすくなります。それにより、多様化した消費者のニーズに応える商品開発へと結びつくのです。事業を多角化し、変化する社会の中で生き残るには人材の多様化はもはや避けられないといっても良いかもしれません。

5-3.企業に対する社会的評価が向上する

様々な人材を幅広く採用し多様な働き方を推進することは、すなわち従業員を大切にするということに他なりません。いち早く積極的にダイバーシティを進めている企業は、従業員の満足度を高めることができますし、話題性もあるので社会的な認知が向上し、ひいてはその評価も高まっていきます。つまり企業のイメージアップに大きく貢献するというわけです。

社会的に高く評価され、従業員も気持ちよく働いている企業では業績も上がり、ますます良い人材が集まってくるようになります。そして従業員の不満が減ればハラスメントも起こりにくくなるので、職場環境はさらに良くなるという好循環が生まれます。
 

6.ダイバーシティを推進することで従業員側が得られるメリット

企業側だけでなく、従業員側にとってもダイバーシティの推進は大きなメリットをもたらします。ここからは、従業員にとってのメリットについて解説します。

6-1.能力を発揮して活躍できる場が広がる

かつての日本企業では、一人一人の個性や能力よりも年齢・性別や社歴・学歴など表層的な部分を重視して仕事を割り振ることがほとんどでした。ベテランはこの仕事、新人はこの仕事、あるいは男性・女性はそれぞれこういった仕事、といった具合です。そのため、適材適所という言葉はあってもあまり現実的ではありませんでした。

ダイバーシティを推進している企業では、個人のスキルや個性、自主性が尊重されるため、本当の意味での適材適所が実現されます。組織内の移動も活発になり、一人一人に活躍のチャンスが与えられ、伸び伸びと能力を発揮できるようになります。

6-2.多様な人材と接することにより成長につながる

一つの企業に長く勤めていると、その企業の価値観に染まってしまい視野が狭くなる、ということがあります。多様化する時代に対応していくためには、これは致命的なことです。その点、多様な個性や能力を持った人材が集まる会社では、自分とは違った感覚や価値観を持つ人に出会うことができます。そこから刺激を受けて新しい発想を得たり、自分とは異なる属性を持った人を受け入れる柔軟さを育てることは、自身の成長につながります。仕事を通して人間的にも成長していきたいと思う人にとっては、ダイバーシティの進んだ企業は理想的な環境といえるでしょう。

6-3.モチベーション高く働ける

毎日長時間職場に拘束され家族と過ごす時間も取れない、というのでは心身ともに疲弊してしまいます。仕事の効率は落ち、なんのために働いているのかわからなくなり、最悪の場合健康を損ねてしまうこともあるかもしれません。しかしダイバーシティを推進し柔軟な働き方を認めている企業なら、自分の都合に合わせた働き方が可能です。仕事と家庭の両立ができれば満足度が上がり、モチベーションもアップして効率よく仕事をすることができるようになるでしょう。

また、多様な人材を採用する企業では個性を尊重する風土が生まれるため、息苦しさを感じることなく居心地の良さを感じながら働くことができます。
 

企業側にも従業員側にもメリットの多いダイバーシティ推進

多様性を意味するダイバーシティは、国籍や年齢・性別にこだわることなく、幅広い人材を採用し活用していく戦略です。ダイバーシティの推進は、企業だけでなく従業員にとっても居心地の良い職場で個性を発揮して仕事ができるなど多くのメリットがあります。従って、転職を考えているなら働きやすい環境の整ったダイバーシティ推進企業への転職を検討するのがおすすめです。
 

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