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従業員は企業にとって重要な戦力であると同時にかけがえのない宝でもあります。根本的な企業の成長力というのは従業員によるところが大きいのです。人事業界では「エンプロイーエクスペリエンス」という考え方がトレンドとなっており、大手企業の間でも注目を集めています。今回はエンプロイーエクスペリエンスの意味・注目されるようになった背景・取り組み方などを見ていきましょう。
エンプロイーエクスペリエンス(Employee Experience)は日本語で「従業員体験・従業員の経験価値」と訳されることが多いです。一口に「経験」と言ってもその内容は多岐に及びます。例えば「職場に対する満足度」「スキルアップ」「会社組織内での経験」「人事」「健康状態」などが挙げられるでしょう。これらも代表的なものに過ぎず、実際のところエンプロイーエクスペリエンスには従業員が仕事や職場で経験し得るすべての事象が含まれていると考えて問題ありません。マイケル・ペイジの2021年度人材トレンドの報告では、リーダーシップや仕事のやりがい、同僚との関係、キャリア開発の機会、メンタルヘルスとウェルビーイング(福利厚生)への配慮が「エンプロイーエクスペリエンス」を高める上で重要という結果が出ています。
また、エンプロイーエクスペリエンスという考え方はこれまでビジネスシーンで重要視されてきた「ユーザーエクスペリエンス(ユーザー体験)」「カスタマーエクスペリエンス(顧客体験)」から派生したものであると言われています。この2つはサービスや商品を利用した消費者の視点に立って満足度を図るものです。一方、エンプロイーエクスペリエンスはサービスや商品を提供する側である従業員の視点に立って満足度を高めることを重視する考え方となっています。
消費者の体験を重視していた従来の考え方に加えてエンプロイーエクスペリエンスが注目されるようになったのには、社会的な事情やビジネスシーン全体における方針転換が関係しています。具体的には以下の2点が大きな要因とされているので覚えておきましょう。
エンプロイーエクスペリエンスは人材不足の解消に効果が期待されているため、徐々に注目を集めるようになったとされています。日本では少子高齢化が社会問題化しており、労働を担う15歳以上65歳未満の生産年齢人口は1990年代以降減少し続けているのです。業界によって多少の差こそあれ、現場では1980年代に生まれた「ミレニアム世代」と呼ばれる人たちが組織の中心となっています。企業としては自社で抱えているミレニアム世代の従業員を如何にして確保するか・流出を防ぐかが重要なポイントと言えるでしょう。
しかし、ミレニアム世代は日本で古くから採用されてきた「終身雇用」という働き方に頓着しない傾向が見られます。転職についてもネガティブな捉え方ではなく、むしろ「新しいキャリアに挑戦して自分を成長させるチャンス」といったポジティブなアクションとしての認識を持っている人が多いです。また、ミレニアム世代はインターネット技術が急速に発達・普及した時代を経験しているため、デジタル機器の扱いに長けている人も少なくありません。ECサイトやストリーミングなど、サービス品質が高い中で育ってきたので、自分が働く職場においても高品質な体験を求める傾向が強いのです。
このように企業は消費者だけでなく、従業員からの要求も高くなっているという認識を持つ必要が生まれました。したがって、日常業務をはじめとする職場環境の改善や健全な経営体制の見直しなど、エンプロイーエクスペリエンスに着目した取り組みを行う企業が増えたのです。
エンプロイーエクスペリエンスが注目集めるようになった要因としてはもう1つ「企業の収益向上が期待出来る」という点が挙げられます。企業が展開するサービスは従業員によって提供されるものです。従業員の健康状態や仕事に対するモチベーションは、サービス品質に直結するポイントと言って良いでしょう。エンプロイーエクスペリエンスによって従業員の満足度を向上させることができれば、その分自社サービスの品質向上も期待できるのです。そして、サービス品質の向上はそれを利用する消費者や顧客の満足度に繋がるため、ユーザーエクスペリエンスやカスタマーエクスペリエンスの改善も見込むことができます。業績・収益が向上すれば企業側はさらに従業員が働きやすい環境を整えられるようになるでしょう。エンプロイーエクスペリエンスの向上は企業にとって良好な経営サイクルを作り出すための第一歩となっています。これは「サービス・プロフィット・チェーン(SPC)」と呼ばれています。
エンプロイーエクスペリエンスを向上させるためには、的確なポイントを押さえた上で環境の改善に取り組むことが大切です。具体的には以下の3つの点に注力すると効果的であるとされています。
従業員体験を向上させるためには、まず「エンプロイージャーニーマップ」と呼ばれる表を作成するのが一般的となっています。エンプロイージャーニーマップは「従業員が入社から退社までの期間を通してどのような体験を得られるか」をフローチャートによって一覧にしたものです。従来の人事では入社から退社まで「従業員をどのようにして管理するか」という視点がベースになっていました。しかし、エンプロイーエクスペリエンスでは「従業員の視点に立つ」という考え方が前提となっているため、企業としてはまず視点を切り替える必要性が出てきます。エンプロイージャーニーマップは従業員体験の全体像を可視化することで、企業が従業員視点に立つための手助けになるのです。
エンプロイージャーニーマップは「ゴール設定」「ペルソナ(架空のモデル)設定」「施策設定」という3つのプロセスを踏んで作成されます。これによって、何を目指して・どんな人に対して・どのような取り組みを行うのかが明確になるでしょう。経験価値を適切なプロセスで可視化することは「企業が打ち出したいイメージ」や「自社が求める人物像」をより一層鮮明にすることにも繋がります。エンプロイージャーニーマップは経営戦略の策定や人材獲得にも有効なツールと言って良いでしょう。
エンプロイーエクスペリエンスの向上には、従業員が働く現場である職場の労働環境を整備する取り組みも重要です。従業員が心身共に健康的な状態で働けるように「健康経営」を推進していくことが求められます。具体的には従業員個々の労働時間が適切に管理されているか、過度な仕事量などで従業員にストレスがかかっていないかなどを見直してみることが基本的な取り組みです。多くの業界で人材不足が叫ばれている現代社会では、こうした基本的なラインを守ることも難しくなっている現場は少なくありません。また、エンプロイーエクスペリエンスには職場での人間関係も大きな影響を及ぼします。上司や先輩からのワハラが横行しているような職場では、優れた従業員体験を積む事は難しいでしょう。現代社会では企業側での適切なモラル管理が求められているのです。
エンプロイーエクスペリエンスの向上に取り組む際には、中長期的に見てそれが実際に成果として表れているかどうかチェックしておく必要があるでしょう。職場での働きやすさやストレスに関するアンケートを実施して、従業員と企業との良好なコミュニケーションを促進することが重要です。こうした意見調査は「従業員サーベイ」と呼ばれることが多いので覚えておきましょう。労働時間・仕事の配分・人間関係などで従業員がストレスを感じているようであれば、迅速に対策を講じることでエンプロイーエクスペリエンスの向上が期待できます。それだけはなく、従業員からの信頼度や帰属意識も高まるので離職率低下にも効果的です。エンプロイーエクスペリエンスは従業員と企業とのリレーションシップも重要であると言えるでしょう。
人材不足が社会問題となっている現代では、エンプロイーエクスペリエンスを向上させて人材流出を防ぐことが企業の大きな課題となっています。良質なエンプロイーエクスペリエンスは自社サービスや商品の品質向上にも効果が期待され、ひいては消費者・顧客の満足度にも繋がっていくのです。企業としての成長力を高めるためには、従業員視点に立った労働環境の整備を心がけていきましょう。
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