笑顔でパソコンを見ているビジネス会議の中の3人の同僚。

DXに取り組む企業が増えていく中で、DX推進に欠かせない人材育成の必要が叫ばれています。そんな中で注目されているのが「リスキリング」です。最近では、大手運送会社がリスキリングによって大量のデジタル人材の育成を目指すといったニュースも見られました。リスキリングは、DX人材を目指す人にとっても重要なものです。そこで、ここではリスキリングの意味や、類似する概念であるアップスキリングとの違い、そして社内に導入する際のポイントについて解説します。

関連記事:企業に必須なキャリア開発!メリットや導入の具体的な方法を解説
 

1.リスキリングとは?意味を知ろう!

リスキリング(Reskilling)とは再びスキルを身につける(re-skill)こと、すなわち職業能力の再開発・再教育という意味です。働く人にとって職業能力を向上させるというと、今従事している仕事に関する知識や能力を高めること、というイメージがあるかもしれません。しかし、仕事のデジタル化やAIの活用が進む中、職場環境も大きな変化を余儀なくされており、単に今持っているスキルを発展させるだけでは追い付くことができません。こうした時代の変化の中で、企業がスキルを既に持った人材を新たに採用することでニーズを補うのではなく、既存社員のスキルを磨き直すことでニーズを賄おうとするのがリスキリングの概念です。

類似した言葉に「リカレント教育」がありますが、こちらは働く中で勉強の必要や欲求を感じたら一旦仕事をやめて学び、知識を身につけて再び職に就く、というものです。すなわち「働く」と「学ぶ」を交互に行うサイクルを繰り返していくわけですが、リスキリングはこうしたいわゆる「学び直し」とは異なります。単に個人の関心や興味で学ぶのではなく、あくまで職業上新たな価値を創出するためにスキルを身につけるのがリスキリングの目的です。

関連記事:VUCAとは?VUCA時代に求められるキャリアやスキルを解説
 

2.リスキリングが必要なのはどうして?

仕事のデジタル化や自動化の進展により省力化が進むと、その変化に対応できない人は職を失い、一方DXを推進するような高度な知識と技術を持った人材は不足する、といういわば仕事と人材のミスマッチともいえる状況が起こります。人材不足なのに失職者が出る、というのはおかしな状況ですし、人材不足によってDX推進が進まず企業の生き残りも図れないという事態も起こり得ます。リスキリングが注目されるようになったのには、こうした背景があるのです。

既存の社員に対しリスキリングを行うことによって、社員は新たなデジタルスキルを得て仕事を続けることができるようになりますし、会社としても人材不足が解消されてDXを推進できるようになります。つまり、リスキリングは、企業と社員双方の生き残り策ともいえます。中途採用を行うという方法もありますが、求める人材が全体に不足していることと、社内の業務を理解している人がDXを担当することには大きなメリットがあり、既存社員へのリスキリングが人材戦略として注目されているのです。

関連記事:ワークエンゲージメントとは?高めるメリットと企業の取り組み方について
 

3.リスキリング導入のメリットは?

  • 社員のエンゲージメント向上につながる
  • 人材不足に対応できる
  • DXの活用で業務効率を向上させることができる

リスキリングの導入にはさまざまなメリットがありますが、まずは社員のエンゲージメント向上につながることが挙げられます。リスキリングとは社員に学びの機会を提供することであり、社員の健全なキャリア形成を支援するということでもあります。社員の将来のためになる施策を企業が積極的に推進することで、社員のエンゲージメントも向上し、離職率低下などにつながるでしょう。
次に、人材不足に対応できることもリスキリング導入のメリットの一つです。デジタル分野における人材不足は今後ますます悪化していくことが予想され、外部からの人材獲得も困難になります。リスキリングによって元からいる社員の能力を伸ばすことで、将来的な人材不足にも対応できるのです。
また、リスキリングでスキルを獲得した社員が、DXの活用で業務効率を向上させることも期待できます。さらに、社内業務をよく知っている人材に既存事業に取り組んでもらえることもメリットの一つです。リスキリングで社員の能力を伸ばせば、外部から人材を獲得した場合のように既存事業についてあらためて学んでもらう必要がありません。

関連記事:テレワークでも使える!従業員エンゲージメントを高める方法
 

4.似たワードの「アップスキリング」とはどう違う?

リスキリングと似た言葉に「アップスキリング」というものがあります。これは文字通りスキルをアップするということです。ITの進化が急速に進む中、職場で必要なスキルもスピーディーなレベルアップが求められています。ITの進化は速まって行く一方ですから、せっかく身につけたスキルも役に立つ期間はどんどん短くなっています。新しい技術が登場すれば、それを身につけなくては仕事にならないということもあり、アップスキリングの重要性は増す一方です。

このように同じ職種の中で新たな技術を取り入れスキルを高めていくアップスキリングに対し、リスキリングは別の職種で必要なスキルを身につけていくものです。例えば、マーケティング担当者がAIの活用を学んで仕事に必要なデータ分析に活かせるようになるのは、同じ職種内でのスキルアップなのでアップスキリングですが、この担当者がもしプログラミングを学んでITエンジニアになるとしたら、それはリスキリングということになります。DXの場合は、このリスキリングとアップスキリングの両方が必要です。
 

5.リスキリング導入の流れ

  1. 事業戦略に基づいて理想とする人材像やスキルを設定する
  2. 具体的な教育プログラムを決定する
  3. リスキリングの対象となる社員に実際に取り組んでもらう
  4. スキルを業務で実践する

実際にリスキリングを推進する場合に備えて、導入の流れを事前に押さえておくとよいでしょう。リスキリングを導入する際は、最初に事業戦略に基づいて理想とする人材像やスキルを設定します。今後の事業について考え、必要とされるであろうスキルを備えている人材が社内にいない場合、リスキリングによる人材教育を検討してください。
次に、具体的な教育プログラムを決定します。リスキリングにおける学習方法には、研修やeラーニング、オンライン講座といった種類があります。なるべく多くの選択肢を用意することで、社員にとって都合のよい学習方法が選べるようにしておきましょう。
教育プログラムが決まったら、リスキリングの対象となる社員に実際に取り組んでもらいます。ここで重要なのは、社員の意思を尊重することです。社会人になってから新たなスキルを身に付けるのは、多かれ少なかれ負担のかかる行為です。会社に必要なスキルの習得を強要すると社員の反感を買う恐れがあるため、社員自身のキャリアプランなどを確かめたうえで、両者がウィンウィンの関係になれるような進め方を検討してください。
リスキリングで社員にスキルを習得してもらったら、そのスキルを業務で実践するという流れになります。
 

6.リスキリングを導入するポイント!

では、実際に社内でリスキリングを導入する際にはどのような点に注意したらよいのか、そのポイントを解説します。

6-1.社員の理解を深めてモチベーションを高める

リスキリングはこれまでの業務とは違ったことを学ぶので、社員の中には抵抗を感じる人もいるかもしれません。特にベテラン社員の場合、これまでに身につけた職能や取り組んできた仕事、古いやり方などに固執したり、デジタル化の進展に拒絶感を持ったりして頑なに抵抗する人も少なくないでしょう。企業には幅広い年齢層の社員がおり、その考え方も様々ですからこうした人が一定数いるのは仕方のないことです。

とはいえ、そこで諦めるわけにはいきません。企業としてリスキリングを進めるのであれば、こうした人たちにもリスキリングの意味や重要性を理解してもらい、積極的に取り組んでもらうことが必要です。その際、リスキリングによって得られるメリットを強調するのが得策です。リスキリングを行うことで価値を生み出し続ける人材になれること、それにより仕事のやり方が新しく変わっても活躍し続ける可能性が開けることを知らせ、モチベーションを高めると良いでしょう。

6-2.必要なスキルや従業員の持つスキルを可視化する

リスキリングを行うに当たっては、従業員一人一人が現在有しているスキルと、これから必要になるスキルを可視化することが重要です。従業員にはそれぞれこれまでどんな仕事をやってきたか、どんなスキルを持っているかについて詳しい情報を提供してもらいます。こうすることで、今持っているスキルとこれから必要になるスキルのギャップが明らかになります。

日本企業の場合、特にこのスキルの可視化という作業は重要です。なぜなら日本企業には、自由な人事異動を行うために各ポジションに必要なスキルをあえて明示しないという文化があるからです。リスキリングに取り組むのであればそうした過去のやり方は捨て、社内にどんなスキルを持った人がいて、どの職種にはどんなスキルが必要なのかといったことを可視化したスキルマップやスキルデータベースを作成していく必要があります。

6-3.リスキリングプログラムを提供する

これから必要になる仕事と、それを行うために必要なスキルが明確になったら、そのスキルを身につけるためのリスキリングプログラムを提供します。これにより効果的な学習が可能となり、このことは企業にとっても従業員にとっても大きなメリットとなります。

リスキリングプログラムを社内で開発しようと考える企業も多いかもしれませんが、外部のコンテンツやプラットフォームを利用した方が費用も安く効率的です。クラウドサービスやビジネスアプリの提供元企業にはそれらの学習コンテンツがありますし、Eラーニングのプロバイダーではデジタルスキルを身につけるための汎用的な学習プログラムを提供しています。ITの急速な進歩に追いつくためには、こうしたプログラムを利用して効率よくリスキリングを進めていくのが得策です。

6-4.スキルを現場で活用する

リスキリングプログラムでスキルを身につけたら、それを現場で実践してみましょう。DXの推進等で新たに生まれる仕事をするために学んだスキルですから、仕事で実践してこそ真の実力になります。中には先にスキルを身につけてもらったものの、仕事の切り替えが追い付かずすぐに実践できないという場合もあるかもしれません。しかし、そもそも新しい仕事に対応するためにスキルを習得したのです。むしろ現場の仕事をどんどん新しいものに切り替え、新たなスキルを活用できる環境を整えていくことが重要です。

初めから本格的な実践という形ではなく、トライアルのような形でも構いません。リスキリングとDX推進はそれぞれの担当部署が連携して、同時進行で進めていくのが理想的です。
 

7.リスキリングの導入事例

ここでは、リスキリングの導入事例をいくつか紹介します。リスキリングの実施を検討している際は、実際の導入事例を知ると参考になるはずです。

日立製作所では、今後の人材不足を見越してデジタル人材を育てるための会社「日立アカデミー」を設立しています。主に国内のグループ企業に在籍する社員を対象として、「デジタルリテラシーエクササイズ」と呼ばれるDXの基礎教育を行っています。

次に、サステナブルな社会の実現を目指してDXのリスキリングに注力しているのが富士通株式会社です。「データサイエンス」「アジャイル」「デザイン思考」の分野で実践的なスキルを習得するためのプログラムを全社員に提供しています。

アメリカの大手通信会社であるAT&Tは、早くからリスキリングに取り組んでいた企業として知られています。社員の持つスキルを調べ、今後の通信業界の変化に対応できないと判断したAT&T社は、2013年に10億ドルを投じて大規模なリスキリングを敢行しました。
 

リスキリングを実施してDX時代に対応しよう!

DXを進めたいが社内に適切な人材がいない、というのであればリスキリングを実施しましょう。従業員はデジタル人材となって新たな活躍の可能性を見出し、企業はデジタル人材不足を解消して新時代に成長を続けていくことができます。リスキリングは、DX時代に対応するため企業と社員がともに成長していく一つの手段ともいえるでしょう。
 

【2022年6月23日公開 - 2023年10月12日更新】

転職活動中の方は、 こちらから求人を検索ください
 

採用をお考えですか?

以下のフォームに必要事項をご記入ください。弊社コンサルタントより折り返しご連絡をさせていただきます。
If you are looking for a job, visit the candidates section.

 

重要: メールアドレスおよびその他の個人情報をこのウェブサイトに送信することをもって、当該情報が弊社のプライバシーポリシーおよびウェブサイトの利用規約に従い収集、保持、使用および開示されることに同意するものとみなされます。