毎年10月10日は「世界メンタルヘルスデー」に制定されているのをご存知でしょうか。2019年末に流行が始まった新型コロナウイルスにより不自由な生活を強いられた人も多く、メンタルヘルスに関する関心は高まりを見せています。企業においても労働者の精神衛生を管理すべく、メンタルヘルスケアに力を注いでいるところも増えているのです。本稿では企業が労働者のメンタルヘルスを守る必要性や、具体的な取り組みなどを紹介します。

1.そもそも「メンタルヘルス」とは?

メンタルヘルスは日本語に訳すと「人の心の健康状態」という意味になります。メンタルヘルスの不調により、うつ病・アルコール依存症・睡眠障害といった疾患に陥ることは、比較的日本でも広く知られているでしょう。しかし、実際のところメンタルヘルスの不調によって引き起こる症状はこれらだけではありません。厚生労働省ではメンタルヘルスの落ち込みに起因する症状を「社会生活および生活の質に影響を与える可能性のある精神的および行動上の問題を幅広く含むものをいう」と定義しています。つまり、強いストレスを感じたり精神状態が不安定になったりすることも、メンタルヘルスの不調が原因であると認められているのです。

2.企業がメンタルヘルス不調への対策を行うべき理由

メンタルヘルスの管理は個人がすべての責任を負うものではなく、労働者を雇用している企業としても適切な対策を講じることが求められています。労働者のメンタルヘルスが不調に陥ると、まず企業における労働力の低下を招くことになるでしょう。一般的な疾病による休養に比べると、精神疾患による休養は平均して2.5倍の期間が必要になるという調査結果も出ています。長期休養に至らないまでも、メンタルヘルスの不調は生産性の低下を招いてしまう可能性が高いです。 

また、企業は労働契約法の中で労働者の身体及び精神の健康状態を守る義務がある旨が明記されており、これを一般的に「安全配慮義務」と呼びます。企業の管理不足で労働者のメンタルヘルスが不調を招いた・不調を知りながら放置していた場合には、義務違反と見なされ損害賠償を請求される可能性もあるのです。企業がメンタルヘルス対策をしっかり行うことは義務であり、それによって労働者の生産性向上や組織全体の活性化といった効果も期待できます。

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3.メンタルヘルス対策「3つの段階」とは

メンタルヘルス対策に大きく分けて3つのステップが設けられています。これは労働者が抱えるストレス状態の段階に応じて、企業が適切な対策を講じるための枠組みです。まず1次予防ではメンタルヘルスの不調を「未然に防ぐ」ということを目的としています。そのため、取り組みの対象となるのは現時点で健康な精神状態を保っている労働者となるので留意しておきましょう。1次予防では職場の人間関係・労働環境が適切に保たれているかを重点的にチェックするのが企業の努めです。各労働者が自分である程度のメンタルケアを行うことも必要ですが、それだけで健康的な精神状態を長期間保つのは容易ではありません。大切なのは、企業が土台となる環境を整えておくことです。

次の2次予防では「早期発見」が大きな目的とされており、メンタルヘルスの不調が疑われる労働者や精神疾患予備軍に対する迅速な対応が求められます。労働者相談窓口の設置や、外部機関の産業医やメンタルヘルス専門家との連携が具体的な取り組み例として挙げられるでしょう。また、メンタルヘルスが不調になっている労働者が発生した場合には、当人だけでなく周りの労働者にも気を配ることが重要になります。これは同じ環境下で働いている他の労働者もストレスを感じている可能性が高いためです。

最終ラインである3次予防は「休職者の職場復帰支援」がメインテーマとなっています。予防と名がついてはいますが、実際はメンタルヘルスが不調になってしまった労働者へのフォローという側面が強いです。予防という観点で言うのであれば、労働者の離職予防や事態の再発防止といった意味合いが大きいでしょう。一度精神のバランスを崩してしまった労働者は復職後も比較的不安定な状態が続くため、無理をさせない・負担をかけない仕組み作りが企業として求められる取り組みです。産業医によるカウンセリングや復職支援プログラムの提供によって、復職後の労働者が安心して働ける環境を構築しましょう。

一口にメンタルヘルス対策と言っても上記のように各フェーズで対象となる労働者の状態や、企業が求められる取り組みはそれぞれ異なります。誤った対応では労働者のメンタルヘルスを回復させてあげることはできません。適切なアプローチを実施できるように、各フェーズの特徴をしっかりと把握しておくようにしましょう。

4.「4つのメンタルヘルスケア」とは

前述の「3つの段階」とは別に、メンタルヘルスには厚生労働省が「労働者の心の健康の保持増進のための指針」の中で定めている「4つのメンタルヘルス」という概念が存在します。ここからはこの4種類について詳しく見ていきましょう。

4-1.セルフケア

メンタルヘルスは個人単位で取り組めるものもあるので、自衛のための「セルフケア」も重要なポイントとなります。労働者が自発的に予防のための取り組みを行うことが基本となりますが、ある程度専門的な知識が必要になる場面も少なくありません。そのため、企業は労働者が正しい知識でヘルスケアを行えるように、情報提供や環境整備などのサポート体制を提供することが大切です。労働者が自分の精神状態の異常にいち早く気付き、適切な対応を取れるように支えてあげましょう。

4-2.ラインによるケア

職場の上司が部下のメンタルヘルスをしっかりと把握し、必要に応じてケアや指導を行うことを「ラインによるケア」と呼んでいます。ここで言うラインとは、業務における縦の関係性を指します。企業として行うべきことは、部下を抱える管理監督者に対して研修を実施するなどしてメンタルヘルスケアについて正しい知識を定着させる取り組みです。また、部下と上司が普段から良好な人間関係を構築できるようにコミュニケーションの場を設ける、悩み相談を受け付けて適切な対策を講じるといった施策も重要です。

4-3.事業場内の産業保健スタッフ等によるケア

メンタルヘルスのケアには専門家の知識や技術力が必要となるケースも多いです。そうした状況に対処するためにも、事業場内には産業保険スタッフ等を配置しておきましょう。産業保険スタッフ等とは、一般的に「産業医」「衛生管理者」「人事・労務担当者」などが該当します。基本的には産業医や保健師などの専門家から、セルフケア・ラインケアへのサポートを受けられる体制を整備することが理想です。産業保健スタッフを社内に用意できない場合は、自社の衛生管理者や人事・労務担当者が代わりにこうした役割を担うケースが一般的となっています。

4-4.事業場外資源によるケア

労働者が抱えるメンタルヘルスの問題は、社内の人間関係や労働環境が原因となっているケースも多いです。そのため、社内での相談を望まず1人で問題を抱え込んでしまう人も珍しくありません。こうした場合には事業場外資源によるメンタルケアが有効に働くことが期待できます。事業場外資源は社外の専門機関を指しており、代表的なものとしては地域産業保険センターなどが挙げられるでしょう。外部機関と企業が連携することにより、社内でのカミングアウトに抵抗がある労働者も悩みを打ち明けやすい環境が構築できます。また、労働者個人に留まらず企業全体で抱えているメンタルヘルスケアの課題についても意見を求めることが可能です。

5.メンタルヘルス対策の具体的な取り組み

企業がメンタルヘルスケアについて取り組めることは少なくありません。各労働者が抱える問題を適切な形で解決するためには、幅広い対策について理解を深めておくことが大切です。以下では企業が提供できるメンタルヘルスケア対策について解説します。

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5-1.ストレスチェックの実施

1次予防での有効な取り組みとなるストレスチェックは、労働者50人以上の事業所に対して厚生労働省が2015年12月に義務化しているのでしっかり押さえておきましょう。ストレスチェックでは簡単な調査・テストを実施して労働者のストレス度合いを把握し、必要に応じて集計・分析や面談指導などを行います。労働者数が50人未満の事業場では努力義務に留まっていますが、積極的に実施しておきたい取り組みであると言えるでしょう。

5-2.労働環境の改善

労働環境に問題が見られる場合には、改善に向けて迅速に取り組むことが重要です。例えば、労働者1人あたりの仕事量が多い、または業務の属人化によって特定の労働者に大きな負担がかかっている場合は要注意と言えるでしょう。長時間労働や残業の常態化も労働者のメンタルヘルスを悪化させる大きな原因となり得ます。上司や先輩からのハラスメントといった人間関係についても注意を払う必要があります。これらの問題点はストレスチェックとは別に匿名のアンケートを実施することにより、問題が表面化してくるケースも少なくありません。

5-3.専門家との連携

専門家との連携は企業が効果的なメンタルヘルスケアを実施する上で避けて通れないと言っても過言ではありません。産業医や衛生管理者をはじめとして、外部機関のカウンセラーなどにも積極的に協力を仰いでみましょう。これらの専門家とはプライバシーの保護を守る範囲で、必要な情報を共有することも大切です。

5-4.研修の実施

社内でメンタルヘルスに関する研修を実施するというのも有効なアプローチであると言えます。メンタルヘルスの重要性・基礎知識・困った時の対処方法などを研修によって理解してもらいましょう。労働者に向けたストレスマネジメント研修は、各自のセルフケア能力を向上させる効果が期待できます。管理監督者向けの研修ではさらに部下との適切な接し方・メンタルヘルスが不調になった部下の早期発見・対処方法といったポイントも押さえて、ラインによるケアの強化に繋げましょう。

5-5.情報提供

企業としてはメンタルヘルスケアについての情報を、定期的に社内に向けて発信する姿勢も求められています。動画コンテンツ・webページ・社内報・掲示板・雑誌をはじめとする紙媒体など、利用できるものは何でも活用して労働者に正しい知識を身に付けてもらいましょう。メンタルヘルスに関する知識だけでなく、相談窓口の周知を進める効果も期待できます。

5-6.相談窓口の設置

社内に専用の相談窓口が設置されているだけでも、労働者の安心感は高まるものです。大切なのは労働者が「気軽に」相談できる相談窓口を用意してあげることです。そのためには、まず匿名性や情報管理の徹底など、労働者のプライバシー保護を念頭に置く必要があります。メンタルヘルスの専門窓口は現状の打開策提案や相談の他に、休職・復職のサポートをスムーズに行うという役割も担うものであるという認識を持っておきましょう。

6.労働者の休職への対応

メンタルヘルスの不調によって労働者が休業に入る、もしくは休業中となっている場合には適切なプロセスでサポートすることが大切です。労働者が休職に入るタイミングでは、まずは休業手続きや復職支援プログラムの適用に必要となる主治医からの診断書(病気休業診断書)を提出してもらいます。この際、人事・労務管理担当者などが今後のサポートについて本人に詳しく説明するのが一般的です。休職中の労働者は心身を休めることを最優先にしてもらう必要があります。したがって、余計なプレッシャーをかけないように企業からの連絡は多くても月に一度程度に抑えてください。労働者に孤独や不安を感じさせないためにも、最低限の頻度で連絡は取っておくことも重要です。会社はじっくりと復帰を待っているので、焦らず回復に専念してもらって構わない旨を伝えましょう。

休職中の労働者から復職の申し出があり、なおかつ主治医からの復帰許可が出たら、職場に復帰させるためのプラン制作に取り掛かります。いきなり従来通りの業務に戻すのではなく、まずは時短勤務など負担の少ない勤務スタイルや業務内容で心身を仕事に慣らしてもらいましょう。また、復職の直前には主治医とは別に産業医との面談を行うのが理想と言えます。これは主治医と産業医では持っている患者の情報が異なり、復帰可否の正確性を保つためには双方の情報を共有することが望ましいからです。

労働者のメンタルヘルスを守る取り組みを検討しよう

メンタルヘルスは労働者個人の問題と考えられがちですが、企業にとっても労働力や生産性に大きな影響を及ぼす重要なポイントです。法的義務が課されるなど、労働者の健康状態維持は社会的にも感心が高まっています。社内で積極的な取り組みを実施して環境を整えるのはもちろん、必要であれば外部の専門家と協力・連携して労働者の心の健康を保ちましょう。

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