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日本では、現在、少子高齢化が進行し、人口も減少しています。その一方で、医療分野は、新薬の開発や、医療技術、情報技術の発展により、目覚ましい進化を遂げています。これらのことをあわせて考えると、医療業界は、今後、明るい分野といえるのでしょうか?
医療業界と聞けば、白衣を着て病院で働く職種をイメージする人が多いでしょう。たとえば、医師や看護師に加え、薬剤師や診療放射線技師、理学療法士などの職種があります。病院で働く職種としては、この他に医療事務などもあります。
しかしながら、医療業界は病院だけではありません。医療業界には製薬業界や医療機器業界なども含められ、活躍の場はさらに広いです。製薬業界においては、新薬やジェネリック医薬品を作る研究職や、臨床開発に携わるモニターなどのニーズが高まっています。また、医療機器業界では、医療機器の専門家であるクリニカルスペシャリストや、医療機器を点検するサービスエンジニアなどが活躍しています。加えて、自社で開発した医療機器を紹介する営業職も重要な職種のひとつです。
医療業界では、医師や看護師の不足が深刻化しています。医療に対するニーズが高まっている反面、医療現場の仕事がどんどんハードになっていることが大きな理由のひとつです。
また、製薬業界では、アルツハイマーやがんなどの薬の充足度が十分ではありません。新薬の開発には費用がかかりますが、費用の確保も難しい状況となっています。なぜなら、国の政策として薬価の低下やジェネリック医薬品の使用促進などがおこなわれているからです。
ただし、医療機器業界においては、市場の拡大が期待されています。日本はCTやMRIなどの診断系医療機器の競争力が高いので、今後の発展の可能性に注目が集まっている状況です。医療機器業界には、他の業界からの参入も目立つようになってきています。
わが国は、毎年の死亡人数が、出生人数を大きく上回り、年々、人口が減少しています。推計では、2060年には、総人口が9,000万人を割り込み、65歳以上が総人口に占める割合である高齢化率は、約40%という高水準となります。このような、人口構成の変化は、医療業界の将来に対して、深刻な課題を突きつけています。懸念されているのが、「2025年問題」と呼ばれる問題です。2025年に、人口構成の中で最大のボリュームを持つ「団塊の世代」が、全員75歳以上となるのです。この時点で、5人に1人が75歳以上となり、3人に1人が65歳以上という、未経験の超高齢化社会に突入します。これは、医療と介護に、重大な影響を与えます。
第1に、社会保障費の急増は不可避です。少子高齢化社会では、担税力のある労働人口が減少しているため、医療を支える社会保障費の財源が枯渇する危険性があります。第2に、労働人口の不足は、医療と介護の現場で、深刻な人手不足を招きます。まさに、「金」と「人」という、医療業界を支える不可欠な資源が足りないのです。
これらの問題を回避するべく、国は、医療と介護のあり方について、「病院から在宅へ」というスローガンのもとに、方向転換をめざしています。しかし、その成否は未知数であり、今後の大きな課題となります。
国が目指す方向転換を実現するには、地域医療と介護機能を編成し直すことが必要不可欠です。そのために、まずは医療機関の急性期医療と慢性期医療を分け、それぞれの機能を強化する必要があります。そうすれば、医療の効率化も図ることができ、介護とも連携しやすくなるでしょう。
厚生労働省も2025年を目処に地域包括ケアシステムの構築を目指しており、医療と介護のあり方が改善されつつあります。とはいえ、十分な医療と介護のサービスを提供し続けるためには、国の施策に頼りきりではいけません。医療業界全体が協力し、体制作りを進めていく必要があるでしょう。
一方で、医療業界には、将来的に明るい展望も存在しています。
1つは、わが国の疾病構造の変化です。古くは、肺炎や結核といった感染症が多くを占めていましたが、現在では、糖尿病、脳卒中、がんなどの生活習慣病が、死亡割合の約60%を占めており(平成24年時点)、医科診療医療費の約30%が生活習慣病関連疾患に費やされています(同年時点)。このため国は、個々の国民が生活習慣の改善(運動習慣、食生活の改善、禁煙や飲酒量の改善など)による一次予防を心がけるよう呼びかけています。
高齢社会の進展は、生活習慣病の増加と、その治療ニーズの拡大を招くでしょう。そして、適切な治療、あるいは予防意識が高まることによって、健康寿命は延伸します。生活の中での健康維持や、健診の積極的な活用により、生活の質を維持しての長寿へ向かうとみることもできるでしょう
次に、バイオ医薬品の増大も明るい材料です。バイオテクノロジー技術の進歩によって、バイオ医薬品の重要性が著しく高まっています。
バイオ医薬品は、動物細胞、タンパク質、ウイルスなどの生物が生成する物質に由来します。中心は、免疫システムを利用する抗体医薬品です。抗体を利用し、特定の抗原(たとえば、がん細胞の表面にある抗原)を攻撃して治癒の効果をあげる薬です。
日本の医薬品市場では、バイオ医薬品の売上高は、1兆4219億円に達し、全体の13.6%を占めるまでに成長しました(2016年)。特に、先行医薬品と同一の有効成分をもつジェネリック医薬品(後発医薬品)や、特許切れのバイオ医薬品と同等の有効性、安全性が承認されたバイオシミラー(バイオ後続品)の市場が、急速に拡大しつつあり、日本も含め、世界で開発競争が始まっています。医療用医薬品が医薬品市場の多くを占めているなか、その開発にかかるコストが下がれば、医療費の抑制につながります。
また注目されるのがCRO(開発業務受託機関)です。これは医薬品開発の治験業務(臨床開発)を、製薬会社から請け負い、代行する企業です。もともと、欧米では高く認知されていましたが、日本でも、1997年の薬事法改正を契機として注目されるに至りました。現在では、新薬の開発において不可欠の存在であり、今後も、大きな成長領域です。
そして、ICT(情報処理技術)の飛躍的な向上が、医療分野の質的な拡大にも大きく寄与していきます。たとえば、ヒトゲノムデータ(細胞中のデオキシリボ核酸「DNA」を構成する塩基配列)は、すでにコンピューターによって、すべて解読、解析が行われており、遺伝子やタンパク質の膨大なデータが、革新的な治療法や新薬の開発に役立つことが期待されています。
また、全国の医療機関から集約される医療記録、診療記録のビッグデータは、医師の経験や勘だけに頼る医療ではなく、科学的なエビデンス(証拠)に基づく医療を可能とし、さらに新薬や新しい治療法の研究開発にも活用されています。
加えて、医療分野には、AI(人工知能)技術の導入も始まっています。たとえば、ディープラーニングを応用した「AI医療診断」が可能になり、短時間で高度な診断ができるようになりました。AI技術の導入がより大きく広がっていくと、作業効率が飛躍的にアップし、より質の高い医療を提供できるようになるでしょう。たとえば、1人の医師が複数の患者を一度にモニターできるようになれば、医師不足の解消にも大きく貢献するはずです。
そして、個々の診療機関でも、ICTの活用により、患者の病歴や健康情報を一元化でき、患者の個別ニーズに応じた最適な治療、ケアを提供することが可能となるでしょう。
医療業界は、少子高齢化の制約も大きく受けるものの、高齢化という人口構造の変化それ自体が医療ニーズの拡大を促します。そして、ICTやバイオといった科学技術の進展が、医療サービスの質を劇的に向上させていくことから、先行きは明るい業種の1つといえることでしょう。
高齢化が加速する日本においては、高齢者を支えるための手段として「地域包括ケアシステム」が要となるでしょう。高齢化が進むほどに要介護者の数も増えていきます。よって、従来の介護保険サービスだけで高齢者のケアをおこなうのは、現実的に考えて不可能と言わざるを得ません。地域包括ケアシステムは、高齢者が要介護者となった場合でも、本人が住み慣れた地域や自宅で生活し続けるための仕組みです。そのために、介護・医療・生活支援などのサービスについて、近隣のエリア内で提供することを目指しています。地域包括ケアシステムを着実に構築するには、在宅で受けられるサービスをより充実させなければならないでしょう。具体的には、在宅医療や訪問介護といった自立支援型サービスの充実が必要不可欠です。
今後、医療業界で活躍するためには、柔軟な人材としての素質をアピールする必要があるでしょう。なぜなら、患者や他の医療従事者と密なコミュニケーションを取りつつ、目の前の課題に合わせた臨機応変な対応が求められるからです。
また、各分野に対して高い専門性をもつ人材が多く必要とされるようになるでしょう。特に医師については、その傾向が顕著に現れる可能性が高いです。さらに、今後ますます医療現場へのICTの活用が進むと考えられるため、そういった製品やサービスの開発ができる人材に対する注目度も高くなるでしょう。具体的には、医療関係者向けのITシステムやAIによる診断支援サービスなどの開発に貢献できる人材が求められます。
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